(森アナウンサー) 突然ですが皆さん、 乳牛の見た目の美しさを競い合う コンテストがあるのをご存知ですか? 体型や姿勢の美しさは、健康の証とされ、 より良い生乳や、より良い子孫を残す上で 大切な要素となり、 優れた乳牛であることの評価基準となります。
また、牛とのコミュニケーション能力や、 行き届いた飼育管理など、 酪農家の日々の努力を、 一つの作品として披露する場にもなります。
酪農業界で共進会と呼ばれているこのイベント。 古くは明治時代から、 全国各地で開催されています。
(森崎博之) 共進会に青春をささげる若者たちがいます。 帯広農業高校・ホルスタインクラブ。 略してホルクラ。
ホルスタインへ愛情を注ぎ込み 体を張って調教して 仲間たちと寝食を共にして 力を合わせて挑む本番…
ホルクラの共進会にかける青春に密着しました。
3年生3名、2年生3名、1年生17名の計23名、 1年間で7回の共進会へ参加する予定です。
(森崎) いわゆる部活動、って考えると、 ずいぶんユニークな活動内容ですよね。 ねえみんな、数ある部活動の中から、 どうしてホルクラを選んだんですか?
(森崎) それぞれ明確な志しを持って 入部しているんですね。 ところで、ホルクラはもちろん、 酪農家の皆さんも、手間暇をかけてまで、 どうして共進会に参加するのでしょうか?
ホルスタインクラブ顧問 高橋洋先生 「例えばこの牛が日本一になったとしたら この子牛が欲しい… 採卵して子どもを増やして売る人もいますよ。 だけどそういう良い牛を作るってことが 個々の酪農家の…プライドなんですよね」
クラブを束ねる櫻井郁也(ふみや)部長。 部長の親友、佐藤柊誠(しゅうせい)君。 同じく3年生、筥嵜幸(はこざき・さち)さん。
これからご覧いただく農高生たちの奮闘記。 酪農王国北海道には、 こんな青春ドラマもあるんです。
酪農科学科3年 畜産実習授業
「おはようございます!」
平山 隆一郎先生 「今日は乳房の毛を焼きます。 やったことあるよね。 何のためにやるか分かりますか?」
生徒「衛生管理…」
平山先生「衛生管理すると何がいいの?」
生徒「乳房炎…」
平山先生 「そうだね。乳房炎を防ぐために毛を焼く! 毛を焼くと乳房の細菌ば減るし さらに搾乳しやすくなる!」
乳房の毛焼きの実習。 まずは牛が動かないように、 ロープで柵に結びつけることから 始めるのですが…
生徒「あっダメ!あ~うわああああ」
先生「危ないよ!危ないよ!!」
走っていく牛。それを追いかける生徒。
平山先生 「ホルクラにロープの巻き方 教えてもらって!」
(森崎) 酪農科学科の中でも、ホルクラの面々は、 牛使いのエキスパートです。 先生からも生徒からも 頼りにされているんだそうです。
生徒 「輪っかある方を通せばいいの?」 「どれくらい締めればいいの?」
筥嵜さん「結構強めで大丈夫!」
バーナーで毛を炙る。
先生 「こんな感じでどんどん焼いてく。いいか?」
生徒「怖いんだけど…」「めっちゃ煙の臭いする」
一方こちらはホルクラの筥嵜さん。
生徒「めっちゃうまい…」
部活動で、毎日牛と接しているホルクラ。 さすがだな~まったくモ~!
筥嵜さん 「これはね~ 最後は穴のところにキュッと入れて まとめてOK!」
生徒「いえ~い。あははは」
酪農の実習では一目置かれる存在。 普段はごく普通の高校生。
そして、部活動が始まると-
ホルスタインクラブは、 今年度1回目の共進会への参加を 翌日に控えています。 牛の年齢や状況によって細かくクラス分けされる 共進会で2つのクラスにエントリー。
部員は出品する牛の 最終的な手入れに余念がありません。
筥嵜さん 「鮮明に見えた方が牛の形がキレイに見えるので」
共進会への準備として、 毛刈り作業は基本中の基本。 牛の骨格や肉付きをより美しく見せるため、 入念に刈り込みます。
筥嵜さん 「みんな~ごめん!あんね~ ちょっと自分のツナギを汚れてないか確認して もし結構汚れてたら洗濯機で洗いたいんだよね。 うん、今ちょっと確認してほしい!」
筥嵜さん 「はい!ありました。 あの~コンテナの中にありました」
(森崎) 筥嵜さんはこの日、新入部員への指示や、 翌日の遠征の支度などで大忙し。 肝心な調教の練習になかなか進めません。
すると-
櫻井部長 「刈り残しくらい共進会の日に 刈れば良かったのに!」
筥嵜さん「う~ん。頭悪かった…」
櫻井部長 「考えろよ! 今日ひかないとやばいんだからよ!」
筥嵜さん 「う~ん、残る!残るから!もう残る!」
(森) 陽も傾きかけたころ、ようやく調教サークルへ。 牛をリードする技術は、より良い姿勢で歩かせて、 美しさをアピールするために、とても大切な要素。 牛とのコミュニケーション能力も必要とされます。
筥嵜さん 「めんこいですね。やっぱり。 みんなで一生懸命お世話してきてるんで う~んなんか~ 愛着というか…何と言うか… そういうのはありますね!」
(森崎) 牛をリードするための器具、 頭絡(とうらく)を取り付けようとした時、 大変な事態が起こりました。
筥嵜さんのいう事を聞かなくなる牛。
筥嵜さん 「はいはいはい。ちょっと待って… 待って待って…」
筥嵜さん 「わ~待って待って! ごめんごめん!」
あれあれ?なんか様子が… あ~っ!牛が暴れ出しちゃった! コレ、ど~なっちゃうの?
筥嵜さん 「ちょっと待って…いやいやいやいや… ごめんごめんごめん」
子牛と言っても、暴れだしたら 女子一人の手に負えるものではありません! ここは、男子の出番! 力を合わせて、暴れている子牛を捕獲せよ!
生徒 「角に追い込もう」 「横になって!横になって」
筥嵜さん「ごめんごめん…」
囲んで、追い込んで…そう!
生徒「いいぞ!いいぞ!」
は~捕まえた~!離すないでね慎重に…。
筥嵜さん 「いやいやいや… 本当にごめん。本当にごめん。 いやいや…みんな本当にごめん」
(森崎) 改めて頭絡(とうらく)を装着します。 心配した3年生の、 佐藤柊誠君が手伝いに来てくれました。
佐藤くん「何してるの?」
筥嵜さん「えっ!?」
佐藤くん「君ここ持ってないと!」
筥嵜さん「ごめん…ありがとう…」
筥嵜さん、動揺を隠しきれません。
筥嵜さん「はいはい…いいよ…」
結局、この日筥崎さんは、 調教に納得のいく時間をかけることは 出来ませんでした。
翌日にかける意気込みは、熱いんですが…。
櫻井部長「あと5分!」
佐藤くん「コイツ結構いいわ!」
一方、柊誠君がリードする牛は、 順調な仕上がりの様です。
櫻井部長 「初産だからね。 乳房の位置が高いし、良いと思う!」
筥嵜さん 「う~~~ん。10分だけ!」
櫻井部長 「10分ひいても変んないべ。そんな今日で」
筥嵜さん「う~~~ん」
櫻井部長 「だから先にひけば良かったのに。 毛刈りしないで!」
筥嵜さん 「だからまあ…そうなんだけど…」
ミーティング。
櫻井部長 「明日、共進会なんで… 基本的にはそこの2人(筥嵜さんと佐藤君)が 牛をひくんで、 みんな少しでもサポートできるように 頑張ってください!」
部員「はい!」
生徒「長靴キレイにね!」
(森) この日の夜、 筥嵜さんが暮らす寮にお邪魔しました。
釧路出身の筥嵜さんは、入学以来、寮生活。 酪農科学科とホルクラに所属する、 生粋の酪農女子です。
筥嵜さん 「自分の家が酪農家で 実家の酪農業をちゃんと学べたらなと思って 入学しました」
物心がついた頃には、 牛舎を駆け回っていたという筥嵜さん。
筥嵜さん 「一生懸命みんなでお世話した牛が 入賞とかできると、 やっぱりすーごい嬉しいです! そこでやりがい感じますね」
そんな共進会本番まで、待ったなしです。
4月27日。 ホルスタインクラブが参加する 今年度初めての共進会が、この日行われます。 場所は、帯広から少し離れた大樹町。
高橋先生「よし行きますか!」
バスは一路、大樹町へ―。
櫻井部長 「降りたらすぐツナギに着替えて長靴履いてね」
蛇口と持ってきた ホースのサイズが合わない~!
カッターでホースの口を広げるなどして、 何とか括りつけてみたものの… うわああああ
背筋が真っ直ぐだと、高い評価を得るので、 少しでも真っ直ぐに見せるため、 毛を立てたり寝かせたり… 頑張ってます。
(森) 第47回、南十勝ブラックアンドホワイトショウ。
ホルスタインの共進会において、 全国的にも激戦区とされる十勝で、 半世紀近く続く由緒ある大会。
まずは、生後5~8か月の子牛のクラス。 リードするのは筥嵜さんです。
筥嵜さん 「みんなにいっぱい 手伝ったりしてもらったんで頑張ります! ちょっと自信は…いや…ありま… いや自信というか…ちょっと… 頑張りたいです!」
(森) いよいよ共進会が始まりました。 審査は、段階を分けて行われます。
まずは背筋を伸ばしてしっかりと歩いているか、 姿勢などが審査されます。
放送「ありがとうございました」
(森崎) う~ん結果はそのまま。下から2番目。 いや…残念だったね。
部員「お疲れ~」
筥嵜さん「お疲れ~」
櫻井部長 「やっぱ坐骨上がるな…何て言われた?」
佐藤くん「頑張ってくるわ!」
部員「頑張ってください!」
(森崎) 落ち込んでもいられません! 今度は柊誠君がリードする、 出産経験あり・2歳半のクラスがスタート!
部長 「ここここ、ここなんだよ…頑張ってほしい」
佐藤君「いや~惜しかったな」
櫻井部長 「でも十勝の共進会まで楽しみだよ」
2週間後に、 十勝最大級の共進会を控える ホルスタインクラブ。
彼らの闘いは始まったばかりです。