授業の様子を、そっ~と覗いてみると…
先生「席をくっつけてやってみてね」
児童「これ分かんなかったよ~」
教室では1年生の授業、 そしてその反対側では2年生の授業が なんと同時に行われていました。
この教室は生徒が3人。 小学校2年生の山本蒼太くん、 そして同じく2年生の和田隼人くん。 2人に背を向けて座っているのは、 1年生の井出葵ちゃんです。
太田小学校は全校生徒19名。 人数は少ないですが、 みんな仲良く日々勉強しています。
今回のお話の主人公は、そんな子供たちの担任、 斎藤 鉄也先生です。 千葉県出身の43歳。4年前に赴任してきました。
斎藤先生 「自分はずっと都会育ちだったので 北海道の田舎の小さい学校での勤務は ずっと夢でした!」
ディレクター「では今の状況は?」
斎藤先生 「もう理想の学校ですね。 毎日が楽しいですね」
北海道農協青年部協議会が取り組む 農村ホームステイは 学校の先生を対象に2013年から始まりました。
先生たちがJA青年部のメンバーの家に宿泊し、 農村を体験するというもので 子供たちに「食と農業」への魅力を より深く伝えてもらうことを目的として 企画されました。
その活動が評価され、 2016年には日本協同組合学会で受賞、 学校での「食農教育」の充実に貢献しています。
学芸会では、子供たちがこぶた役、 斎藤先生がオオカミ役に扮した 「3匹のこぶた」を披露! チームワークもバッチリで大好評だったそうです。
ねぇみんな、斎藤先生ってどんな先生?
山本蒼太くん(2年生) 「斎藤先生は遊んでくれる時は 楽しく遊んでくれる良い先生です」
井出葵ちゃん(1年生) 「いろいろ楽しいウソをついてくれたりする 先生です(笑)」
和田隼人くん 「一生懸命…勉強を教えてくれる先生です」
子供達からの信頼も熱い斎藤先生。 さて翌日から、地元の酪農家さんに 1泊2日の宿泊体験をする 農村ホームステイ」が始まりますが、心境は?
斎藤先生 「酪農地帯の学校の教員なので まず教師が地域の仕事 酪農の実態を知らなきゃ いけないということで 酪農家さんがどういう想いで仕事をしているか どういう苦労があるか…などを 知れたら良いなと思っています」
斎藤先生 「太田小学校の斎藤です。宜しくお願いします。 全く…何も…分からないのですが…」
こちらが受け入れ先の大野牧場。
大野尋人(ひろと)さんは 厚岸生まれ、厚岸育ちの32歳。 ご両親とともに搾乳牛を およそ170頭も飼育しています。
大野さん 「お願いしまーす。どっから行こうかな」
午後4時。いよいよ仕事の始まりです。
ではここで、酪農家・大野さんの 一日のスケジュールをご紹介。
搾乳は1日2回。朝と夕方に行われます。
その他にも牛舎の清掃やエサやり、 牧草の管理など作業内容は多岐にわたります。
斎藤先生には、 夕方からの作業に参加してもらいます。
大野さん 「ここが牛のクラスとしては小学校くらい」
モウ~モウ~
斎藤先生 「あれ?ちょっとしか取れないですね…」
斎藤先生の最初の仕事は「エサやり」。 この牧草、軽そうに見えますが、 水分を含んでいるので重さがあり 慣れていない人にとって、 かなりの重労働なんです。
斎藤先生「はあ…はあ…」
息を切らしていると-
大野さん 「ここまで全部やっちゃいます!」
斎藤先生「あっ!はい!」
大野さん「はいOKです。そしたら…」
大野さん 「これを食べている間に次の仕事をします!」
小走りしなが大野さんについていく斎藤先生。
大野さん「では搾乳を教えます」
斎藤先生「はい!」
大野さん 「うちでの作業手順なんですけど まず前しぼりをして…5回手でしぼります。 それでこのプレディッピングと言って ヨウ素液です。これをつけます」
乳房を清潔にしてからの搾乳作業。 この作業は牛乳の品質に係わる 大切な行程だそうです。 斎藤先生もさっそくチャレンジ。
斎藤先生 「(牛乳が)出ない!!」
私もこの搾乳の経験は何度もありますけど 「前搾り」は簡単そうに見えて… 日は難しいんですよね。
大野牧場のミルキングパーラーは 16頭を同時に搾乳できます。 牛たちは時間になると、 自らミルキングパーラーに入ってくるので 170頭の搾乳を終えるためには スピーディーに作業を進めなければいけません。
午後5時から8時までの3時間です! この作業が休憩無しでひたすら続くんです。
大野さん 「今のペースでやっていると、 何時間あっても終わらないです!」
斎藤先生 「あーはい…」
大野さん「あはははは(笑)」
しばらくやっていると…
斎藤先生「あー出た!!」
悪戦苦闘していた斎藤先生ですが だいぶ慣れてきたようですね。 でも…
大野さん「はいOKです!」
安堵する斎藤先生。
大野さん 「で!今、この回で56頭終わりました」
ディレクター (小声で)「あと何頭ですか?」
斎藤先生 「ははは…あと~~ 100頭以上いますね…」
斎藤先生 「手が動かない! 指を動かしたいんだけど…」
ディレクター 「これを毎日やっている大野さんは?」
斎藤先生 「いやーすごいですよね。 休みなしですからね」
大野さん「お疲れ様でした」
斎藤先生 「ありがとうございました。 これは一回経験しなきゃダメですね。 子供たちの前でエラそうに喋れないですね。 あははは」
大野さん「思ってたのと違いますか?」
斎藤先生 「全然違いますね!あははは」
斎藤先生 「うわ~お正月にしか食べないような すごいごちそうだね」
午後9時。遅い夕食になりました。 えっ?いつもこのくらいの時間なんですか?
大野さん 「ここからがボクの唯一の時間なんですけど 11時から12時の間くらいには寝たいかな」
ところで大野さん、 酪農という忙しい仕事を続けながら 農村ホームステイを受け入れるのは 何故なんですか?
つづいては「牛舎」へ行きますよ。
大野利春さん 「これでフン押しをしてください」
とここで-
利春さん 「先生、たまたま発情中の牛いるわ。 あの茶色いの!」
利春さん 「ああやって騒ぐんですよ。 あとで人工受精師さんを呼んで 受精してもらう」
斎藤先生「そうなんですか」
利春さん 「表面すっごく汗かいてますよ」
斎藤先生「そうなんだ。へえ~」
家畜人工受精師の中村綾那さんは 慣れた手つきでチェックしていきます。
ただただ見つめる斎藤先生。
中村綾那さん 「こういう棒なんですけど… ここに(先端)精液を入れて 押し出す仕組みなんですね」
斎藤先生「へ~~」
大野さん 「これが酪農で一番大事な仕事になります」
淡々と冷静に人工受精が行われました。 終ったあとは、みんな笑顔です。
午前8時。 綺麗になったベッドに牛たちが戻りました。
これにて斉藤先生の農村ホームステイは 終了となります。
大野さん 「終了です。お疲れ様でした」
斎藤先生 「ありがとうございました… いや~面白かったですね! こんなに色々な仕事があるんだなと!」
大野さん 「良かった!それを経験してもらって 児童に伝えてもらえれば!」
いよいよお別れです。
大野さん 「また何かあれば宜しくお願いします!」
斎藤先生 「こちらこそ!お願いします。 (ハル君と)バイバーイ」
森崎 「農村ホームステイを終えた斎藤先生。 翌日その経験を子どもたちに伝える 特別授業を行いました」
斎藤先生 「先生が昨日とおととい行ってきた場所は 大野さんのお家です」
斎藤先生は写真を見せながら 酪農業のお仕事を説明していきます。
斎藤先生「これが大変だったんですよ」
隼人くん 「うわっ、これ機械ハイテクだなあ」
斎藤先生 「それで乳搾りするうちが何頭いると思う?」
子ども「う~~ん??」
斎藤先生「176頭」
こども「うええええええ」
斎藤先生が子供たちに伝えたこと。
それは、おいしい牛乳を生産するために 酪農家は毎日大変な作業をしている、 ということ。
ねぇみんな、お話を聞いてみてどうだった?
井出葵ちゃん 「そんな大変な仕事をやっているなんて すごいなあと思いました」
山本蒼大くん 「色々な体験を頑張ってきて 良いと思いました」
和田隼人くん 「自分も(両親の)牛舎仕事を お手伝いするんだけど こんなにも難しいそうな事をしているのは… 知らなかったです」
さあ楽しい給食の時間。
斎藤先生 「おいしい太田の牛乳。 味わって飲んでくださいね」
葵ちゃん「あー美味しい」
蒼大くん 「キワミルクって結構飲んでないなあ~」
葵ちゃん「そうだね」
斎藤先生「どうですか?」
蒼大くん「おいしっ!」
給食に出された牛乳は 「あっけし極(きわ)みるく65」。
J地元の美味しい牛乳を飲んで欲しいという 酪農家たちの想いから誕生しました。
先生の話を聞いて、 改めて飲む牛乳のお味は?
蒼大くん 「“きわみるく”は太田の新鮮な牛乳の味がして とても良い味だと思います」
葵ちゃん 「いつ飲んでも美味しいと思いました」
斎藤先生 「酪農家のみなさんの仕事・地域に対する 熱い思いを聞くことができて こうした熱い思いに支えられて この牛乳ができているんだなあという事が よく分かりました。 学校で子供たちと学習を進めていくうえでも 子供たちには この地域の熱い想いに出会わせて そして子供たち自身も この地域での生き方について 想いを持って生きていって欲しいなと 思いました」
森崎 「一泊二日の農村ホームステイ。 酪農家の仕事はどれも大変なものばかりです。 でも斎藤先生が目にした あの町の若き酪農家の 格好良くて、たくましい姿! これもきっと子供たちに受け継がれたはずです。 よしっ! おれも乳、搾ってきます」
正解は「ユーラップネギ」でした