札幌に店を構えて30年。 北海道の寿司界の重鎮、山田弘さんは、 北海道米にこだわり ‘ゆめぴりか’と‘ななつぼし’の ブレンド米で寿司を握っています。
すし屋のやま田 店長 山田弘さん 「以前は“こしひかり”“ササニシキ”を 使っていたんですが 道産米をどうしても使いたい! という気持ちになったときに 10年前の道産米は寿司米として 物足りなかったんです。 寿司米は時間が経ってから使うものですから 冷めてしまうとどうしても 旨みが納得できなかったです。 もちもち…っとした食感の寿司が好きなので ゆめぴりかとななつぼしは (理想の寿司に)ぴったりの米で 満足のいく寿司が握れるようになりました」
【すし屋のやま田本店】 住所)札幌市中央区南5西4
さらに清田区の住宅街にある パン・洋菓子店「ドルチェヴィータ」。 ガラスケースには北海道産の小麦を 100%使ったケーキがずらり。
ドルチェヴィータ オーナーシェフ 安孫子政之さん 「以前に比べて北海道の品種の小麦が とれるようになって (北海道小麦は)香りが良かったり 独特のあま味やうま味を持っていて お菓子やパンにしたときに 日本人好みの味が 出てくるところが 良いなと思って使い続けています」 【DOLCE VITA ドルチェヴィータ】 住所)札幌市清田区美しが丘2条2丁目
とプロも認めるほど北海道の 農作物のクオリティーは高い! テレビの前の皆さんも以前より 美味しくなった!手ごろに買える!と 思い当たることが多いはず… それは生産者の日頃の努力はもちろんですが よりよい農作物を生産するために行う 「品種改良」による力も大きいのです。
ということで今回は 「品種改良」について知っていこう
佐々木 「品種改良とはどういうものですか?」
岩田さん 「異なる性質を持つ品種を掛け合わせて その中から親品種の良い所を組み合わせた 新しい品種を作り出すことです」
森崎 「僕らくらいになると必ず言うの。 北海道米って美味しくなったよねって。 それは岩田さんのような研究者さん 北海道の農業を研究してくれる人たちが 品種改良を行うことによって 北海道の米が良くなっていったんだよ」
真剣に話を聞くあぐりっこ。 今回は5年生あぐりっこ2人が参加。 佐伯世響(セナ)君と小林葵(アオイ)ちゃん。
こちらの施設で研究しているのは ある特徴的な栽培方法の品種 ということなのですがそもそも、 米には2種類の栽培方法があるのを ご存知ですか?
岩田さん 「まず1つはハウスの中で苗を育てて 大きくしてから田んぼに移植する方法。 移植栽培といいます。 今の北海道は移植栽培のほうが多いです。
岩田さん 「ここでは直播き栽培の品種開発のための 研究をしています」
‘直播き栽培’は ハウスで苗を育てる手間が掛からず、 苗を移植する必要もないので 高齢化やコスト削減の解決策として 今後、広がることが期待されている栽培方法 なんです。
こちらの施設では 現在、直播き栽培用として使われている品種、 ‘ほしまる’をバージョンアップする研究を 行っているということ。
岩田さん 「こちらは“ほしまる”という品種を 低温下に置いていたものです。 ほしまるは発芽は出来るんですけど 発芽できる種子の割合が低いんです… もしこれをもっと発芽できるようになれば 播種(ハシュ:種をまくこと)に使う種の量を 減らすことができますし また収量も安定してとれるようになります」
藤尾 「今でも充分、主力品種だけど さらに良くしようとしている。 大谷翔平に170キロを 投げさせるようなものじゃ?」
佐々木「さらにね…」
そんな“ほしまるにかけ合わせているのが ポルトガルの品種‘アロズダテラ’。
岩田さん 「アロズダテラは寒い中で発芽して 大きくなるのは得意なんですけども 美味しくなかったり… 病気に弱かったりと良くない所も 多く持ってる外国の品種です。 ここでは“ほしまる”の美味しさや 早く花を咲かせるという良い所をそのままに アロズダテラの発芽性だけを ピンポイントで取り込む! という研究をしています」
森崎・佐々木「はあ~(感心する)」
藤尾 「でもそんな簡単には行かないでしょう!」
佐々木 「どんなやり方で品種改良を しているんですか?」
岩田さん 「葯培養(やくばいよう)という方法です」
藤尾「ヤクバイヨウ??」
セナ「聞いたことない…」
岩田さん 「植物は1つの細胞から元の植物体を 再生させる不思議な性質を持っています。 葯培養(やくばいよう)というのは 葯というのは雄しべのことなんですけど 1つの葯(雄しべ)から 元の植物体を作り上げることです!」
葯(やく)、おしべから植物体を作る 葯培養(やくばいよう)とは!?
まず通常の品種改良は 両親を掛け合わせても数世代は 特徴がバラついてしまいます。 そこで何代も何代も栽培をして 性質を安定させる事が必要なんですが これだと何年も何年もかかってしまいます。
そこで「葯培養」という方法を取り入れると、 より短い期間で性質を安定させる事ができます。 とても画期的な方法なんです。
そんな葯培養は 4つの行程に分かれています。
まずは穂のサンプリング 培養に必要な葯をとるために、 適した葯が入っている穂を選びます。
続いては葯置床(やくちしょう)。 どんな作業なのかというと…
詳しいお話を移動してお聞きします。
森崎 「ここは絶対実験する場所だね!」
佐々木 「新しい言葉の葯置床とは?」
岩田さん 「稲の穂の1粒1粒から未熟な花粉を含む 葯(雄しべ)を取り出して 培地に置くことです」
穂のなかに黄色く透けて見えるもの。 これが葯(やく)です!
これを取り出し、 特定の栄養が入っている培地にのせるのです。
森崎「うわ~」
藤尾 「雄しべって小さいんですねえ」
では実際の作業を見せてもらいましょう!
岩田さん 「まず葯をピンセットで取り出します」
藤尾「細かい!どうやってやるの?」
岩田さん 「葯が粒の半分以下になってるものを選んで ハサミで切ります。 軽く押すと粒が開くので ピンセットで葯を取り出します」
あぐり一行「ええええ~」
つかんだやくを試験管の中の培地に乗せ 一本一本が重ならないように並べていくという とっても細かい作業なんです。
セナ 「ちょっと…自分じゃ出来なそう! 絶対に!」
佐々木 「今日はせっかくですから… 葯置床!やってみましょう」
セナ「うわっええええ~」
森崎「罰ゲームみたいなリアクション」
ということでセナ君チャレンジ!
まずは葯をつぶさないように穂を切ります。 そこにピンセットを入れようとしますが…
手が震えてなかなか入りません!
セナ「すんごく難しい!」
取り出すだけでも大変なのですが 色んな制約もあります。
岩田さん「試験管が指が付かないように!」 セナ「これじゃついちゃう!」
セナのやってる様子を見てるだけの大人も・・
森崎 「自分がやってないのに目がチカチカしてる」
集中すること数分…
セナ「できました!」
森崎「しっかりと葯が入ってます!」
佐々木 「これをいつもやってる 岩田さんのことをどう思う?」
ちなみに、このこまか~い作業。 リーダーがチャレンジすると…
あれれ?ピントがなかなか合わない?!
森崎「見えない!」
しばし葯と向き合うリーダー…
岩田さん 「1日で何百本と…」
森崎 「無理無理無理無理…」
と、かなり細かい作業ですが これで終わりではありません。
森崎 「岩田さんは何のために日々 研究をしているのですか?」
岩田さん 「直播き栽培がもっと一般的になれば 北海道の農業の 安定に寄与できると信じて 研究をしています!」
森崎 「心をこめて応援します。 ありがとうございます!」
森崎 「これは何だ? この葉っぱは見たことあるけど… こんな大きかったっけ?」
アオイ 「ニンジンだ!葉っぱが同じ」
正解は…ニンジン!
こちらのハウスでは加工に適したニンジンの 品種改良が行われているんです。 去年の秋に収穫した人参を鉢に植え、 茎を伸ばし、花を咲かせたら 品種改良が始まります。
それでは本村洋一さんに ニンジンの品種改良について 話を伺っていきましょう!
稲は品種から同じ特性を持った 種子ができますが、 ニンジンは品種から同じ特性を持った 種子を取る事ができません。
そこでニンジンの場合、 Aという品種の種を作るためには その都度、親系統を交配 させる事が必要なんです。 その交配させる親系統を改良し、 組合せを変えることで品種改良しているのです。
本村さん「重要なのはこの花。」
森崎「ニンジンの花を咲かせるんだ」
藤尾「これがニンジンの花なんだあ」
セナ「なんかすごい甘い!」
アオイ「あ~甘い!」
セナ「めっちゃ花粉落ちてる」
ニンジンは様々な性質をもつ親を交配させ 種を取り、品種改良を行うのです。
佐々木 「ニンジンの品種改良に 欠かせないモノがあるそうですが…」
本村さん 「それは…ハエです!」 …一同キョトン…
本村さん 「で、こちら」(普通に話を進めようとしますが…)
森崎 「…ん??」
本村さん「あれ?」 森崎 「ハエと聞こえましたが… 合っていますか?」
本村さん「虫のハエです」
森崎 「あのハエですか?わざと飼ってるんですか?」
本村さん 「ハエに受粉してもらっているんです」
森崎 「ちょっと待ってください! 何の虫に受粉をしてもらうイメージ?」
セナ「ミツバチ!」
森崎「そうだ蜂だよね」
本村さん 「ハチは温度変化に弱いので 狭い範囲で温度変化がある場所なので…」
森崎「あえてのハエなのね!」 本村さん「あえてのハエなんです!」
白い布で雌株と雄株を覆いハエを入れます。 ハエは蜜を吸うために花に集まり 受粉してくれるということなんです。
ハエが活躍してくれると受粉が成功!
すると、このように種ができるんです。
こうして出来た種を6月から畑に植え 更なる品種改良が行われます。
本村さん 「(人参以外)玉ネギなどにも利用してます。 幅広く品種改良の場で使われていると思います」
森崎 「そうだったんだ。ごめんな今まで嫌って…」
1つの品種ができあがるまで 15年ほどかかるというニンジン。 花を見る目、根を見る目がものを言う世界だと 本村さんはいいます。
本村さん 「美味しいニンジンは当然ですが 加工用ニンジンをメインに作っていますので 大きすぎず長すぎない収穫しやすい ニンジンを目指しています!」
森崎 「そうか…本村withハエだ!」
藤尾「良いコンビですね!」
虫を使った品種改良の次は 味覚を頼りに行う品種改良について 知っていきましょう! その研究は小麦で行われているということで 竹之内悠さんにお話しを伺いましょう。
竹之内さん 「秋に獲れた小麦をパンにする試験を 行っています」
森崎「パン♪早速作りましょう♪」
佐々木 「作りませんよ!ここにズラーっと 並んでいるものがありますが…」
藤尾 「1万種類の中から世に巣立って行く品種は どれくらいあるんですか?」
竹之内さん 「世に巣立って行くのは… ほとんどありません! この研究所から世に巣立っていった品種は 1品種です…」
森崎 「今年生まれた生まれなかったじゃないんだ… 生まれたものは この世に残っていくものを研究されてる…」
竹之内さん 「そうですね。 その1品種は全道の春蒔き小麦の 主要品種となっていて 1万ヘクタールを超える 作付面積を誇っています」
森崎「すごい。それは何ですか?」
竹之内さん 「春よ恋という品種です」
森崎 「春よ恋!産んだの!すごいじゃん」
藤尾 「すごい!歴史に名を刻んだよ」
ではここであぐりメンバーで 小麦の食味試験にチャレンジ! 香り・や味の違いがわかるかな?
竹之内さん 「まず一般の市販強力粉と比較してますので 市販強力粉から食べてみてください」
森崎 「いい香り…これにコメント付けるの難しい」
竹之内さん 「香りがあるのもひとつの評価ですよ。 次に真ん中をつまんで白い部分だけ食して下さい」
アオイ 「つまんだときからフワフワしている」
セナ「うまい!」
続いては‘春よ恋’ 香りの違いはあるのかな?
アオイ 「嗅ぎ比べてもいいですか?」
佐々木「なんと研究心に火がついたか!」
嗅いで嗅いで…
セナ「春よ恋の方が香りが甘いかもしれない」
竹之内さん 「一般の市販粉よりも春よ恋のほうが 甘い香りがすると言われています」
藤尾「セナすご~い」
セナ「イエーイ」
アオイ「とった所の口がしっとり」
森崎 「風味がすごく活きてる感じがしますね」
竹之内さん 「市販粉はサックリした食感で 春よ恋は甘くてもっちりした食感です」
佐々木 「これだけで美味しい。 春よ恋おいしいですよ」
続いて開発途中の小麦粉「A」。
セナ「春よ恋よりしっとりしてる」
アオイ「歯触りと舌触りがいい感じ!」
竹之内さん 「さきほどの春よ恋よりはソフトな 食感だと思いました」
最後は小麦粉「B」。
森崎「重いよ…」
藤尾「しっかりしたパンだなという感じ」
セナ 「耳もちょっと固め… どっちかって言うとしっとりではない」
アオイ「パサパサしている…」
セナ「ちぎるとポロポロ落ちる…」
竹之内さん 「このBという品種は小麦の特性として パサパサしているので私達はこの品種を 悪い評価にしています」
こちらで研究しているのは‘春まき小麦’ パンに向いている強力粉です。
品種としてデビューするには 畑での様子も重要ですが、 生地にした時の特徴、 また食べた時の食感や味など 総合的に良いものでなければいけません。
そこで研究員の皆さんは、 ごくわずかな違いを判断し より良いものを選抜するために 食味試験を行っているのです。
竹之内さん 「今流通している品種でも 病気の抵抗性だったり 収量が不十分なところがあるので さらに上の品種を開発するのが わたしたちの仕事です!」
雪に閉ざされる北海道の冬。 まさにこの時期に安全安心な作物を 安定的に食卓へ届けるための 研究が行われています。
北海道農業は生産者を始め、 作物と向き合う多くの人達に 支えられているのです。